会社をよりよくするための「休む」決断。これからの男性育休を考えるー
「育児・介護休業法」が段階的に改正され、男性も育児休暇を取得しやすい環境が整いつつあります。企業には育休制度の周知や取得意向確認の措置が義務付けられ、育休の取得に必要とされていた条件も緩和されるなど、まさに「男性育休元年」となった2022年。実際に育休を取得した2人の男性に、育休を体験した率直な感想や、今後の課題についてお聞きしました。
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社内初の男性育休を取得
Nさん(写真左):2022年8月末に第一子が生まれ、9月から育児休暇を取得しました。実は出産直前に夫婦揃ってコロナに感染してしまって。会社を病欠している間に子どもが生まれ、そのまま育休に突入するという、なかなかハードな育児デビューでした。
Mさん(写真右):Nさんの育休終了間際のタイミングで、私が育休に入りました。実はこれまで社内では育休を取った男性社員がいなかったので、育休取得第一号・第二号がこの秋立て続けに誕生したことになります。
Nさん:我が家では妊娠3カ月ごろから、私が育休を取ることを検討していました。出産直後でまだ体力が戻っていない時期に、妻ひとりで子どもの世話と家事をこなすのは大変ですし、自分自身もこのタイミングで時間を取って、一通り子どもの世話をできるようになっておかねば!という気持ちが強かったので。
Mさん:私も育休を取ることは、早いうちから決めていましたね。出産予定日がたまたま長期出張の直前だったこともあって、もしここで育休を取らなかったら、まともに子どもの顔を見ないままに1ヵ月家を空けることになる。それはさすがにマズいだろ!って。
Nさん:確かに、子どもにまだ父と認識されない状態で離れてしまうのは辛いですよね。出張から戻った時、お子さんの反応はどうでした?
Mさん:よそよそしかったです。
「男性も育児をするのは当然のことだから」
Nさん:育休取得については早い段階から上長に相談していました。男性育休に関してまだ社内の制度が整備されておらず、手探りの状態でしたが、上司や同僚から反対されたり、批判的なことを言われるようなことはなかったですね。上長も
「男性も育児をするのは当然のことだから」
と言ってくれて、みんな協力的でした。
Mさん:10月からは出生時育児休業(産後パパ育休・男性版産休)も導入され、男性が育休を取得しやすくなる環境は整いつつありますが、未だ男性の育休に理解のない会社もあると聞きますもんね。
Mさん:自社でも前例がないことだったので、自分が育休を取ることに対する部内のメンバーの戸惑いは、少なからず感じました。でも、休暇の取り方や不在時の業務引継ぎ、休暇前後のリモートワーク導入など「これからみんなで環境を整えていこう!」というウェルカムな姿勢がありがたかったです。
Nさん:育休について、事前に社内の先輩パパさんに相談したんですよ。そうしたら
「出産後は奥さんの負担が大きいんだから、絶対に育休を取って、子どもの世話をしたほうがいい。取らなかったら、後々めちゃくちゃ恨まれるぞ」
とアドバイスされて。
Mさん:私も先輩ママさんに聞いたら、同じことを言われました。旦那さんがもしあの時育休を取れなかったとしたら、今も激しく恨んでたって(笑)
Nさん:自分が実際に経験してみて、ああ、こういうことか、と。こんなに大変なのか、と理解できましたね。早い段階から育児の大変さと世話の仕方を理解できてよかったです。
Mさん:短い期間であっても、育児にフルコミットできた経験は、後々活きてきますよね。ミルク準備、おむつ交換、沐浴、寝かしつけ、一通りを難なくこなせるようになっておかないと、仕事に復帰した後にまともに戦力になれない。
Nさん:何がどこにあるか把握できていないとか、哺乳瓶の消毒ってどうするんだっけ?とか、いちいち確認しているようでは、妻の負担を余計に増やすだけですもんね。
Mさん:妻の負担を少しでも減らせればと考えて、休暇中は食事の準備や家事を今まで以上にやっていましたね。
Nさん:すごい!私は料理のセンスがゼロなので、妻に「料理は私がやる」と言われているんです。その分、掃除や洗濯など他の家事はやりましたけどね。
会社をよりよくするための「休む」決断
Mさん:育休を取ってよかった!と思っていますが、まとまった期間会社を不在にすることへの不安や、違和感のようなものはありました。
Nさん:そうですね。私は特に営業職なので、自分の持っている目標数字に対する焦りもありました。
Mさん:休暇中の仕事は別の営業担当に引き継いでいたんですか?
Nさん:いえ、一定期間だけまるっと誰かに任せにくい仕事が多くて、調整に苦労しました。取引先の企業に育休に入ることを伝えた時に「おめでとうございます!」と祝ってもらえたのは、本当にありがたかったです。
Mさん:1週間、1ヵ月などの短期間限定であっても、職場を離れるのは不安だ、という男性も多いと聞きます。評価に響くのではないかとか、復帰した時に溜まったタスクを片づけることを考えたら休むのが怖い、とか。でも、育休に入るまでに社内で自分の役割が確立できていて、普段から同僚とのコミュニケーションが取れていれば、復帰後が不安で休めない、なんてことは起こらないのでは。
Nさん:もちろん、社風や職種、担当業務によって状況は変わるでしょう。でも、1ヶ月程度の育児休暇取得で同僚や上司との関係が悪化してしまうような職場は、あまり健全とはいえないですよね。
Mさん:ただでさえ多忙な部署なので、自分が休むことで他のメンバーに負担をかけてしまう申し訳なさは、私にもありました。でも、だからといって休めない、休まない、と判断してしまうのはよくない。この先、後輩たちにも同じ選択をさせてしまいかねないですからね。
Nさん:休暇取得をフォローしてくれた社内のメンバーに、改めて感謝ですね。
キャリアを中断せざるを得ない女性の気持ち
Nさん:自分が育休を取得したことで、産育休に入る女性の気持ちが少しわかった気がしています。
Mさん:それはありますね。女性の場合は年単位で職場から離れざるを得ないケースも多いですし。
Nさん:1年、2年経てば事業内容や経営方針、社内の雰囲気がガラッと変わってしまうことは珍しくありません。復帰した後の会社の空気に馴染めないとか、異動で慣れない仕事に従事しなければならなくなったといった女性の悩みを、これまではリアルに捉えられていませんでした。でも、自分が育休を経験した今では、産育休から復帰した女性社員のフォローを積極的にしなければと意識が変わりました。
Mさん:やはり女性は出産による体の負担が大きいじゃないですか。まだ復調していない状態で早々に職場復帰するのは、あまり現実的じゃない。だからといって、育児はすべて女性任せにするものでもない。男性も育休を活用し、夫婦揃って育児に向き合う期間を取ることは、とても重要だと思います。
Nさん:今のところ社内で次の予定はないですが、もしも男性社員に育休について相談されたら「絶対に取ったほうがいい!奥さんのフォローが最優先!」とアドバイスしますね。その分、仕事は全力でフォローします。
何もかも「会社任せ」では無責任すぎる
Mさん:2022年10月の法改正で、企業には「自社の労働者へ育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)制度と育児休業取得促進に関する方針の周知」が義務付けられました。だからといって、当事者が何も動かない、調べない、では、あまりに無責任すぎると思うんです。その気になれば情報をいくらでも取りにいけるのだから、国任せ、会社任せにしないで、制度について自分で調べ、会社に相談・提案する意識をもっていたいです。
Nさん:Mさんは育休制度や育児休業給付金、保険料の免除などについて、綿密に調べていましたよね。自分はバタバタしていて、あまり調べられなかったなあ。
Mさん:休みを取れば当然、収入は減ります。育休期間中の家計はどのように調整するのか。補填に活用できる制度はあるのかなど、事前に調べておくことで、休暇取得に対する不安が軽減できますよ。
育休体験を共有し、よりよい環境を整えたい
Nさん:そういえば、自分たちの育休体験談って、特に社内で共有していなかったですよね。
Mさん:取得した事実を周知しただけで、その後の話はできていないですね。これから本格的に社内制度を整えていくフェーズにあるのだから、我々が積極的に情報共有すべきなのかもしれません。
Nさん:状況に応じて柔軟に変化していけるのが、MAPのいいところですからね。
Mさん:Nさんもまだ「育児休業制度(※原則子が1歳(最長2歳)までの間に分割して2回の休暇を取得できる制度)」を活用できる期間が残っていますよね。今後また育休を取る予定はありますか?
Nさん:現時点では予定していませんが、タイミングが合えば取りたいですね。まとまった期間完全に休むのは難しくても、リモートワークと併用して家事育児ができる時間が取れたらいいなと。
Mさん:女性だけじゃなく、男性も仕事と家庭を両立する方法をもっと真剣に考えないといけないですね。「男性育休黎明期」をせっかく体験できたのだから、自分たちが積極的に社内制度の整備にも関わっていければと思います。
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