もうすぐ寝たきりになる僕が、障がい者の働き方とタルセンeラーニングに思うこと。
「気になるしごと」で活躍する人のインタビューシリーズです。今回の気になる人は、全国各地での講演活動など多方面で活動する落水洋介さん。これまでの経緯や難病を抱えながらさまざまな仕事に挑戦する理由、障がい者採用に特化した就業マッチングプラットフォーム「タルセンeラーニング」についてお聞きしました。
Profile
株式会社MAP タルセンeラーニング事業部 落水 洋介さん
1982年生まれ、北九州出身。幼少期からサッカーをはじめ、小学生時代は日本代表に選出されたFW大久保嘉人選手とともに北九州市の選抜チームでプレーする。社会人になり化粧品メーカーで営業・商品開発を経験。31歳でPLS(原発性側索硬化症)を発症する。現在は小中高校でのキャリア教育や、ユニバーサルマナー講師、企業向け講演活動を中心に多方面で活躍。電動車椅子で全国を回っている。
死にたい。けど、死ぬ勇気なんてない。
僕は31歳の時にPLS(原発性側索硬化症)と診断されました。
PLSとは、大脳から脊髄に至る神経に障害が起こることで、徐々に歩行や会話が困難になり、最後には寝たきりになるという非常に稀な難病です。原因や治療法は、未だ解明されていません。
サッカー少年で運動神経抜群だった僕が、まだ30代なのに、歩いたり、着替えたりといった、これまで普通にできていたことが、だんだんできなくなっていくー。
恥ずかしい、情けない。なんで自分がこんな病気になってしまったんだろう。死にたい、でも死ぬ勇気なんてないから、走っている車が、僕に向かって突っ込んできてくれないかな。
そんなことばかり考えていた時間を経て、現在はこう思っています。
「今が、一番幸せ」
この病気になっていなければできなかった経験や、会えなかった人、考えることすらなかった問題が、たくさんあります。PLSという病気になったことで僕の人生の経験値は確実に上がり、視野が広がったと感じています。
「お節介な人たち」に支えられた活動
現在は自身の経験を伝える講演活動や、障がいや病気を抱える方、高齢者や外国人など、多様な立場にある人との接し方を伝えるユニバーサル研修の講師、さらにメディア出演など、様々な活動をしています。
[阿佐ヶ谷アパートメント] 大バズりした“元ヤンキー”と難病PLSの車いすユーザー | はじめましてのふたり旅 | NHK
中には車椅子に企業のロゴを貼りつけて自らを広告媒体にしたり、僕とお酒を飲むイベントを開催したりといった、ちょっと変わった取り組みもあります。
どちらかといえば人見知り。積極的に人脈を広げて、自分からアクションを起こすタイプではない僕が、今のような活動ができているのは、周りにいるお節介な人たちのおかげです。
僕は凡人なので、斬新なビジネスモデルがどんどん湧き出てくることはありません。僕をサポートしてくれる知人や友人からアドバイスをもらったり、成功している人の真似をしたりして、なんとかアイデアを形にしているのです。
難病PLSを抱えながら、自分で仕事を作り出す理由
こんな風に自分で仕事を作り、挑戦し続ける一番の理由は、僕が普通の就職活動をして仕事を見つけるのは困難だから。
少子高齢化に伴う労働人口の減少は日本の大きな課題ですが、障がい者の就業機会は決して多くはありません。仕事が見つかったとしても、安心して生活できる水準の収入が得られない場合もあります。
もちろん、日本には障がい年金や特別障がい者手当、生活保護など、病気や障がいによって就業が困難な人が利用できる社会保障制度があります。しかし僕と同じく「働いて収入を得たい」「社会と接点を持ち、活躍する場を見つけたい」と希望する人は少なくないのです。
僕には子供が2人いるので、現実問題として生活費を稼がなくてはいけません。でも会社員だった20代の頃、激務による過度のストレスに悩んだ経験から「お金を稼ぐためだけにイヤイヤする仕事なんてもうしたくない」という強い気持ちも持っています。
だからこそ、ワクワクできる仕事に携わりたい。仕事でもっと心躍る瞬間を体験したい。といっても、僕一人の力でできることは限られているので、周りの人にサポートしてもらいながら、少しづつ活動の場を増やしてきました。
仕事に対するモチベーションの源泉は、家族の存在と反骨精神。もしも子供たちがいなければ、頑張って働こう!という気持ちにはならなかったでしょうし、病気や障がいを抱えながらも活躍している人たちの存在がなければ「自分だってやってやる!」という気持ちは持てなかったかもしれません。
障がい者がタルセンeラーニングで学ぶ意味はある?
現在僕は、障がい者雇用に特化した就業マッチングプラットフォーム「タルセンeラーニング」の運営に携わっています。
タルセンeラーニングは、パソコンを触ったことのない初心者でも、パソコン操作やビジネスマナーの学習、IT系国家資格の取得まですべてオンラインで学べる、就業支援事業所向けの無料サービス。eラーニングでの学習進捗状況やスキル習熟度をデータベースで共有することで、障がい者の採用を検討する企業から直接スカウトを受けられるという画期的な取り組みです。
僕は障がいを持つ立場から、カリキュラムや学習動画のクオリティをチェックしたり、この事業を広く知ってもらうための広報活動などを担当しています。
初めてタルセンeラーニングを知った時は「障がいを持つ人がITスキルを無料で取得できて、就業マッチングまで実現できる、素晴らしい取り組みだな」と思いました。
でも以前、障がい者向けの就労支援学校を見学した際に「ITの勉強をしても就職につながることはほとんどない」と説明された経験から「IT資格を取得したくらいでは、就職なんてできないのでは?」という疑問もありました。
タルセンeラーニング事業にいちスタッフとして携わるにあたり、正直に社内の担当者にこの懸念点を伝えたら、
「eラーニングでコツコツと学習する前向きな姿勢を『学習進捗状況の共有』という形で定量的に確認できる点は、採用する側が注目する大事なポイントなんです。新しいことを学ぶ姿勢のある方は、入社後に長く活躍してもらえるという期待値が上がり、採用につながるケースも多いんですよ。」
と教えてもらいました。なるほど、そういう観点があるのかと納得して、改めてこのサービスについて考えるようになりました。
病気や障がいの有無に関わらず、一人でコツコツ学ぶeラーニングは、決して簡単ではありません。IT知識やパソコンスキルの向上によほどの興味と熱意がある人でなければ、継続が難しいと思うんです。
この学びが、どんな未来につながるのか。企業の採用担当者は、学習進捗状況をどのように見ているのか。このあたりを学習者に改めて説明する必要があると感じ、社内でも提案しています。
障がいを持つ自分だからこその視点で、このサービスをもっとブラッシュアップして、世に広めていきたい。スキルをつけて、リモートワークなどで働く機会を求める障がい者の就業支援ができたら、とてもうれしいです。
100万人に1人の難病を持つ僕が伝えたいこと
若いうちは自身の人生について、深く考える機会はあまりないと思います。僕も20代の頃は、自分自身と本気で向き合ったことなんてありませんでした。
でも、20代のうちから「幸せってなんだろう?」とか「人生の大半の時間を費やす仕事ってなんだろう?」、「仕事をただお金を稼ぐためだけの時間にしてもいいのか?」など、一度とことん考えてみて欲しい。今は強くそう思うのです。
でも、普通の大人が20代の若者にこんな話をしたところで、全く刺さらないでしょうね。自分も病気になるまでは、そんな若者でしたから。
だからこそ、僕は伝え続けたい。100万人に1人の難病を発症し、仕事を失い、車椅子生活になり、今後もゆるやかに症状が進行して、いずれは寝たきりになる。そんなドン底を経験をしている人間が「せっかくなら心躍る仕事をしようよ!」と発信すれば、若い人にも少しはリアリティを持って耳を傾けてもらえるのかな、と思います。
今の僕の「心躍る瞬間」は、仲間とみんなでお酒を飲みながら、くだらない話で笑い合ったり、これからの夢を語り合ったりする時。今後病気が進行して、動けなくなってもできること、したいことを、いつも考えています。
僕と同じように、病気や障がいがあっても働きたい人の支援をしたいし、グループホームやヘルパーステーションサービスの事業も展開したい。この先喋れなくなっても、ITの力を借りて講演活動は続けたい。現場には赴くけど、講演自体は完全自動化。質疑応答も事前にプログラムしておいて、僕は視線入力でキーボード操作するだけ。とかできたら、超ラクですよね(笑)。
お金を稼ぐためだけにイヤな仕事はやりたくないけど、夢を叶えるためには面倒なことや苦手なことをやらなきゃいけない場面はあります。苦手なことは周りで僕を支えてくれる「お節介な人たち」に頼りつつ、これからも夢に向かって挑戦を続けたいです。
障がい者のデジタルスキル習得と就業マッチングをサポート
働くことに障がいを持つ方が利用する就労支援事業所(就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型事業所)には『ITスキルを取得できるeラーニングシステムと就職支援ツール』として、障がい者の採用を検討する企業には『人材データベースと採用・定着支援ツール』として、それぞれ無料でご利用いただけます。